相続時精算課税制度について
- 概 要
- 適用対象者、適用対象財産等
- 適用手続と適用時期
- 贈与税の計算
- 相続税の計算
- 相続時精算課税制度は相続税対策になるの?
- 住宅取得等資金に係る相続時精算課税制度の特例の概要
- 住宅取得等資金に係る相続時精算課税制度の特例の適用対象
1. 概要
「相続時精算課税制度」とは、納税者の選択により、一定の要件のもとに、20歳以上の子が65歳以上の親から生前贈与した場合に、その贈与財産の累積額のうち2,500万円を超える部分については20%の税率で贈与税を課税し、当該親の死亡時に、相続財産に当該贈与財産を加算して相続税額を求め、贈与時に納付した贈与税を控除して、相続税の納付税額を求めるものです。 この新制度の目的は、親からの生前贈与に掛かる贈与税負担を軽減することにより、資産(お金)のある親から、資産(お金)を必要としている子への資産移転を円滑にすることです。
▼子Aが相続時精算課税制度を適用した場合
贈与時 | 贈与財産 | 特別控除後の課税価格 | 贈与税額 |
---|---|---|---|
1年目 | 1,500万円 | 1,500万円-1,500万円 = 0円 | 0円 |
2年目 | 1,500万円 | 1,500万円 - (2,500万円-1,500万円) = 500万円 | × 20% = 100万円 |
3,000万円 (a) |
|
100万円 (b) |
相続時 | 子A | 子B | 配偶者 | |
---|---|---|---|---|
相続財産 |
贈与財産 3,000万円 (a) |
相続財産 17,000万円 |
相続財産 20,000万円 |
相続財産 20,000万円 |
課税遺産総額 | 60,000万円 - 8,000万円(基礎控除) = 52,000万円 | |||
相続税総額 | 15,700万円 | |||
各人算出税額 | 5,233万円 | 5,233万円 | 5,234万円 | |
税額控除 |
贈与税額控除 △100万円(b) |
配偶者税額軽減 △ 5,234万円 |
||
納付税額 | 5,133万円 | 5,233万円 | 0円 |
子A | 子B | 配偶者 | |
---|---|---|---|
贈与税 | 100万円 | - | - |
相続税 | 5,133万円 | 5,233万円 | 0円 |
税金計 | 5,233万円 | 5,233万円 | 0円 |
2. 適用対象者、適用対象財産等
通 常 | 住宅取得等資金 | |
---|---|---|
贈与者 | 65歳以上の親 | 親(年齢制限なし) |
受贈者 | 20歳以上の子である推定相続人(代襲相続人を含む) |
20歳以上の子である推定相続人 (代襲相続人を含む) |
適用対象財産 | 贈与財産の種類に制限なし | 住宅取得等資金 |
金額等 | 金額、贈与回数に制限なし | 金額、贈与回数に制限なし |
特別控除 | 2,500万円 |
3,500万円 (通常に1,000万円加算) |
適用の選択については、父母別々に選択ができますが、父母両方において相続時精算課税制度を選択すれば、合わせて5,000万円(住宅取得等資金の場合7,000万円)の特別控除を受けることができます。
父 | 母 |
---|---|
相続時精算課税制度 選択 |
110万円の基礎控除 普通の贈与税率 |
110万円の基礎控除 普通の贈与税率 |
相続時精算課税制度 選択 |
相続時精算課税制度 選択 |
相続時精算課税制度 選択 |
3. 適用手続と適用時期
適用手続 | 相続時精算課税制度を選択しようとする最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に所轄税務署長にその旨の届出を贈与税申告書に添付し、選択の意思表示をする必要があります。 |
---|---|
適用時期 | 平成15年1月1日以後の相続又は贈与から適用する。 |
※ただし、一度この制度の適用を受ける届出を出しますと、当該親からの贈与は相続が開始されるまで本制度による贈与が継続され、通常の贈与税の適用(110万円の基礎控除、通常の贈与税率)は受けられませんので注意が必要です。
4. 贈与税の計算
{対象受贈者より受けた財産の価額 - 2,500万円(過年度使用額を除く) }×20 % = 本制度に係る贈与税額 ※2,500 万円の特別控除は、本制度を採用してから相続直前までの贈与税の非課税の限度額です。したがいまして、数年に亘って数回贈与を行っても、累積で2,500 万円を超えない場合、贈与税は掛からないことになりますが、累積で2,500万円を超えた場合、超えた年以降の贈与金額に直接20%の贈与税が課税されます。上記3ただし書のとおり、本制度を受けた贈与には基礎控除の110万円及び通常の贈与税率の適用はできませんので注意が必要です。ただし、本制度を適用しない贈与については、従来どおり110万円の基礎控除の適用はあります。
5. 相続税の計算
本制度を適用した場合の相続税の計算は、次の手順により相続税額を計算して納付する。
- (1)贈与財産の相続財産への加算
- 相続時までに贈与を受けた本制度に係る贈与財産を相続財産に加算します。この場合、加算する贈与財産の価額は贈与時の時価によります。
- (2)相続税額の算出
- (1)で計算した金額について、従来と同様の相続税計算を行う。
・・・・ 相続税額計算シュミュレーションはこちら - (3)贈与税額の控除
- (2)で計算した相続税額から既に支払った贈与税額を控除し、納付税額を計算します。又、引ききれない場合は、還付となります。
6. 相続時精算課税制度は相続税対策になるの?
あくまで、贈与時には課税しないというだけで、将来の相続税が免除されるものではなく、相続税の計算時に課税対象に加算されるため、贈与時の資産評価と相続時の資産評価が同じとすると相続税は変わりないことになります。たとえば、1億円の土地を贈与した場合において、物価状況の違いにより相続対策効果は次のようになります。
物価の状況 | デフレ | インフレ |
---|---|---|
贈与時評価 | 1億円 | 1億円 |
相続時評価 | 8千万円 | 1億2千万円 |
相続時加算額 | 1億円 | 1億円 |
相続対策効果 | 相続時点において8千万円の資産を1億円で相続税の課税標準に加算するため、相対的に損となる。 | 相続時点において1億2千万円の資産を1億円で相続税の課税標準に加算するため、相対的に得となる。 |
この制度は、相続の時期、物価、金利要素などの変化に応じ税負担が変わり、相続税対策に用いるには不確定要素が多い制度であるといえます。特に物価がデフレの場合は、相続税が高くなり損となるケースが多くなるでしょう。では、この制度の有効性は何かと考えるに、相続税の掛からない人(相続税の基礎控除以下の人)が、この改正前に贈与をすると、贈与税の基礎控除を超えた部分に贈与税が課税されていましたが、この制度を適用することで、子への財産の移動を無税で早く行えることになったという点と考えられます。
従来の相続税対策との比較
子A | 子B | |
---|---|---|
対策 | 相続時精算課税制度を適用 | 10年間基礎控除額(110万円)を贈与 |
生前贈与 | 2,500万円 | 110万円×10年間=1,100万円 |
贈与税 | 0円 | 0円 |
相続財産 | 20,000万円 - 2,500万円 = 17,500万円 | 20,000万円 - 1,100万円 = 18,900万円 |
相続時 | 子A | 子B | ||
---|---|---|---|---|
相続財産 |
贈与財産 2,500万円 |
相続財産 17,500万円 |
贈与財産 相続前3年内を加算 330万円 |
相続財産 18,900万円 |
課税遺産総額 | 39,230万円 - 7,000万円(基礎控除) = 32,230万円 | |||
相続税総額 | 9,492万円 | |||
各人算出税額 | 4,839万円 | 4,653万円 | ||
税額控除 | 贈与税額控除 △ 0円 | 贈与税額控除 △ 0円 | ||
納付税額 | 4,839万円 | 4,653万円 |
7. 住宅取得等資金に係る相続時精算課税制度の特例の概要
相続時精算課税制度の特例で、(1)自己の居住の用に供する一定の家屋を取得する資金の贈与を受ける場合か、(2)自己の居住の用に供する家屋の一定の増改築のための資金の贈与に限り、住宅取得資金贈与について特別控除額を 1,000万円上乗せし3,500万円とするものです。
適用期限 | 平成15年1月1日から平成19年12月31日までの間に行われた贈与により取得した住宅取得等資金について適用される。 |
---|---|
贈 与 者 | 親(年齢制限なし) |
受 贈 者 | 20歳以上の子である推定相続人(代襲相続人を含む) |
受贈資産 | 住宅取得等資金である金銭に限られ、かつ、その用途について制約がある。 |
特別控除額 | 相続時精算課税制度の特別控除額2,500万円に住宅取得等資金特別控除額1,000万円が加算され、特別控除額が3,500万円となります。 |
申告要件 | この特例の適用を受けようとする贈与税の申告書に、この特例を受ける旨を記載し、計算明細書等の所定の書類の添付がある場合に限り適用されます。 |
居住要件を欠く場合の遡及是正 | この特例の適用を受けた受贈者が、住宅取得等資金を充てて新築・取得・増改築等を行った家屋について、その資金贈与を受けた日の属する年の翌年12月31日までに住宅用家屋を居住の用に供していないなどでその居住要件を欠くことになった場合には、この特例の適用を受けるために提出した「相続時精算課税選択届出書」の提出はなかったものとみなされ、また、遡ってこの特例に係る相続時精算の適用が否認されることになる。 |
贈与額 | 累積特別控除 | 贈 与 税 | |
---|---|---|---|
平成15年 | 1,000万円 | 1,000万円 | 課税なし 1,000万円 < 2,500万円 |
平成16年 | 500万円 | 1,500万円 | 課税なし 500万円 < ( 2,500万円 - 1,000万円 ) |
平成17年 |
2,500万円 住宅資金 |
3,500万円 |
・2,500万円 -( 2,500万円 - 1,500万円 + 1,000万円 ) = 500万円 ・500万円 × 20% = 100万円 |
事例2 | 贈与額 | 累積特別控除 | 贈 与 税 |
---|---|---|---|
平成15年 | 1,500万円 | 1,500万円 | 課税なし 1,500万円 < 2,500万円 |
平成16年 |
800万円 住宅資金 |
2,300万円 | 課税なし 800万円 < 1,000万円 |
平成17年 | 1,500万円 | 3,300万円 |
・1,500万円 - ( 2,500万円 - 1,500万円 ) = 500万円 ・500万円 × 20% = 100万円 |
8. 住宅取得等資金に係る相続時精算課税制度の特例の適用対象
適用対象の家屋 |
この特例の適用を受けることができる「一定の家屋」とは、次の要件のすべてを満たす家屋をいいます。
<留意点> |
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適用対象の増改築 |
この特例の適用を受けることができる「一定の増改築」とは、次の要件のすべてを満たす増改築をいいます。
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